古い家を売る前に ― 最初に知っておきたい基本事項
古い家を売却する際には、いきなり不動産会社に売却を依頼するのではなく、まず物件の状態や不動産市場の動向などを正確に把握することが重要です。
特に築年数が経過した物件は、建物の状態や立地条件によって売却価格が大きく変動する可能性があります。
古い家を売る前にチェックすべきポイント
古い家を売却するにあたって、最初にチェックするポイントは建物の築年数と耐震基準です。特に1981年以前に建てられた建物は旧耐震基準で設計されているため、耐震診断や耐震補強工事の要否を確認する必要があります。
もし1981年以前に建てられた建物であっても、耐震性が確保されていると証明できれば、十分な価値を認められる可能性があるでしょう。
次に注目すべきは建物の構造と劣化状態です。木造・鉄骨造・RC造など、構造によって法定耐用年数が異なります。法定耐用年数を超過していると、買手が銀行からの融資を受けにくくなる点に要注意です。
融資が出ない場合は買手が現金で購入できる人に限られるため、値段を下げないと売れないということにもなりかねません。少しでも高く売りたいのであれば、不動産会社と相談しながら売却の戦略を綿密に立てる必要があります。
建物の構造については、家を購入した際の売買契約書や設計に関する書類・図面などが手元に残っていれば確認可能です。構造ごとの法定耐用年数については、国税庁のウェブサイトで確認できます。
国税庁:平成30年分 確定申告書等作成コーナー よくある質問 耐用年数(建物/建物附属設備)
劣化状態については、日常的なメンテナンスをしているかどうかによって、同じ築年数でも建物の劣化状態は大きく異なります。水回りの設備や外壁・屋根の状態を詳細にチェックし、必要に応じて修繕することで、よりよい条件での売却が可能です。
また、不動産市場の動向もチェックすべきポイントの一つです。地域によって不動産需要は大きく異なり、都心部では築古物件でも高値で取引される可能性がある一方、郊外や地方では新築物件と築古物件とで価格差が大きくなる傾向があります。地域の特性や需要を正確に把握することで、適切な売却戦略を立てられるでしょう。
そのほか、建築規制や法的制限の確認も重要な要素となります。具体的には、再建築不可物件に該当していないか(=接道要件を満たしているか)などのポイントです。
再建築不可物件とは、土地の形状や周辺の道路状況などによって災害時の安全を確保するのが難しいため、今建っている建物を取り壊した場合に再度建物を建てることが認められない物件のことを指します。
具体的には、建物が建っている敷地のどこか一辺が道路と2m以上接しているか、接している場合は、その道路が幅員4m以上の道路であるかといったことが確認のポイントです。
関連する法令の条件を満たしているかどうかは売却価格に大きく影響するだけでなく、買手の購入判断を左右する重要な要素となります。法令の条件を満たしていない物件は購入費用を融資する金融機関が少ないため、買手が限られてしまいます。結果的に売れたとしても、買いたたかれてしまうことが少なくありません。
最後に、住宅ローンの返済状況を確認することも必要です。住宅ローンが残っている場合は、一括返済の可否や手数料など、金融機関との調整を要します。売却代金でローンを完済できない場合は、事前の対策検討が必要です。
築年数と建物の価値
一般的に、築年数が経過するにつれて建物の価格は安くなっていきます。例えば築20年程度経過した木造の戸建住宅は、慣例的に建物の価値がないと判断されてきました。これは、物件の性能が明らかでなく、買手が隠れた不具合や品質について不安を抱えていることに起因すると考えられます。
慣例を逆手に取れば、定期的なメンテナンスが行われており、建物の基礎や構造躯体が健全な状態に保たれていることを示せれば、築年数が古くても比較的高い価値を認められる可能性があります。
地震による災害を不安視する人も増えてきた中では特に、耐震基準を満たしている物件や、耐震補強工事を実施済みの物件は、買主からの評価も高くなるでしょう。
また、設備の更新状況も家の価値を左右する重要な要素です。特に、水回りの設備が適切に更新されていれば、築年数が経過していても好印象を得やすくなります。なお、都心部の物件は築年数よりも立地の利便性が重視される傾向があるため、売り出す際には利便性の高い場所にある物件とアピールすることが重要です。
市場価格の調査方法について
売却価格を適切に設定するためには、周辺地域の市場相場を正確に把握することが欠かせません。一般的に、周辺相場よりも10%以上高い価格を設定すると、家は売りにくくなるといわれています。
周辺地域の市場相場を確認するためには、国土交通省が提供する不動産情報ライブラリを見るのが有効です。このサイトでは実際の取引事例を確認できます。
また、民間の不動産情報サイトで近隣の類似物件の売り出し価格をチェックすれば、より具体的な相場感をつかめます。なお、実際にチェックするにあたっては、SUUMOやHOME’Sなどの有名サイトを一通り見れば問題ありません。
そのほか、地元の不動産会社に相談し、どんな条件・価格なら売れそうか、地域の需要を確認することも有効な手段です。ただし、古い家の場合は取引事例があまりないことも多いため、不動産会社が直近で取引を取り扱っていないこともあり得ます。
いずれにしても、1つの情報源だけを見るのではなく、複数の情報源から総合的に判断することが重要になります。地域によって好まれる家の条件は異なるため、地域特性を考慮した価格設定が売却成功のポイントです。
古い家の売却準備に必要な手順
古い家の売却を円滑に進めるためには、まず書類の収集から始めることが必要です。登記簿謄本や建築確認申請書などの建物に関する基本的な書類、固定資産税評価証明書や公図などの土地に関する書類を準備します。
また、過去の修繕履歴をまとめた資料や保証書類がある場合は、それらも用意しておくことで、売却活動をスムーズに進められるでしょう。
物件の現状確認と内部の整理整頓も重要なステップです。建物の不具合や修繕が必要な箇所を詳細にチェックし、簡単にできるものであれば必要に応じて補修を行います。
また、相続物件などの場合は特に、不要な家財道具の処分や清掃に加えて庭木の手入れなど、見た目の印象をよくすることで、買手候補者が内覧しに来たときの評価アップにつながります。
最後に重要なポイントとなるのが適切な不動産会社の選定です。不動産会社を選ぶ上では、複数の不動産会社に査定を依頼した上で比較するのが有効です。どうしても査定価格に目がいきがちですが、古い家を売るのであれば特に、提案される売却戦略が具体的な会社を優先することをおすすめします。
そのほか、古い家を売却した実績も重要な確認ポイントです。実績豊富な不動産会社を選ぶことで、より効果的な売却活動を期待できます。査定価格の根拠説明や売却の戦略が明確で、売却後のサポート体制が整っている会社であれば、安心して任せられるでしょう。
売却をスムーズに進めるための準備リスト
ここまで解説してきた内容を中心として、古い家の売却をスムーズに進めるために必要となる書類などについてまとめましたのでご活用ください。
- 建物に関する基本書類
□ 登記簿謄本(建物)
□ 建築確認申請書・確認済証
□ 検査済証
□ 建物の図面(平面図・立面図)
□ 耐震診断結果報告書(実施している場合)
□ 住宅瑕疵保険証書(加入している場合)
- 土地に関する書類
□ 登記簿謄本(土地)
□ 公図
□ 地積測量図
□ 境界確定図
□ 土地の実測図
- 税金関連書類
□ 固定資産税評価証明書
□ 固定資産税納税証明書
□ 固定資産税課税明細書(直近のもの)
□ 不動産取得時の領収書(購入価格の証明用)
- 管理・修繕関連書類
□ 修繕履歴の記録
□ 定期点検の記録
□ リフォーム工事の契約書・領収書
□ 設備保証書(給湯器・エアコンなど)
□ 自治会や町内会の管理関連書類
- 住宅ローンがある場合の追加書類
□ 住宅ローン残高証明書
□ 返済予定表
□ 抵当権設定登記の承諾書
- 本人確認・権利関係書類
□ 印鑑証明書
□ 住民票
□ 実印
□ 認印
- その他準備が必要な事項
□ 固定資産税の精算に必要な計算書類
□ 不要な家財道具の処分計画
□ 引っ越しの計画書
□ 公共料金の解約予定表
全部の書類がそろえばベストですが、古い家を売る場合は書類を紛失していることも珍しくありません。なお、必ず必要になる書類は「建物に関する基本書類」に挙げている登記簿謄本や建築確認申請書などです。
また、耐震診断の結果や過去の修繕履歴など、安全性や古い家特有の価値を証明できる書類を用意できれば、買主に安心感を与えられるため、スムーズな売却を期待できます。
書類が手元にない場合は、役所を訪問する・申請して取り寄せるなどの手順が必要です。訪問する場合は平日の日中しか対応してもらえないことも多いため、スケジュールの調整が必要になります。
書類をそろえるまで時間がかかってしまうことも多いため、できるだけ早い段階で書類の有無を確認し、必要に応じて再発行の手続きを進めることが重要です。
ケース別の売却戦略は?
古い家の売却において最適な戦略は物件の状態や立地によって大きく異なります。築年数や立地条件によっては、リフォームや修繕を行うことで価値が高まる場合もあれば、そのまま売却したほうがより多くのお金を残せるケースもあります。
築年数別の売却方法
築年数は建物の価値を大きく左右する重要な目安です。物件の築年数によって、リフォームの必要性や売却方法が変わってきます。築年数に応じて考えられる売却の戦略と、それぞれの状況で考慮すべきポイントについて解説していきます。
築20年未満 ― 早期売却を目指すためのポイント
築20年未満の物件は、比較的状態が良好で大規模なリフォームなどを必要としないケースが大半です。物件の状態に問題がなければ、費用対効果を考慮すると、大掛かりなリフォームを行うよりも、必要最小限の修繕を行ってそのまま売り出すことをおすすめします。
具体的には壁紙の張り替えや水回りの清掃など、見た目の印象を改善する程度の手入れで十分です。大規模なリフォームを行うと大きな費用がかかり、売却しても利益を得られない可能性があります。
また、買主が自分の好みでリフォームしたいと考えるケースも多いため、最小限の手直しにとどめることで、より多くの購入検討者から関心を集められる可能性が出てきます。
築20~40年 ― リフォームの価値と売却方法の判断
築20年を超えると、建物の経年劣化が目立ち始めるため設備更新などの検討が必要です。特に耐震性能の確認が重要なポイントです。1981年以前の旧耐震基準で建てられた物件の場合は、耐震診断を実施するとともに、診断の結果によっては耐震補強工事をする必要があります。
一方で、水回りの設備更新など生活の快適性につながる箇所のリフォームは、売却価格の引き上げにつなげられます。特に、給湯器やキッチン、浴室などの設備は築年数相応の経年劣化が起こるケースも多いため、これらの更新は要検討です。
ただし、給湯器や浴室の交換などは費用がかさむため、リフォーム費用と売却価格のバランスを慎重に見極める必要があります。
なお、木造家屋は法定耐用年数が22年とされているため、木造家屋の場合は、築20年を超えてくると売り出しても買手が融資を利用できない可能性も高くなってきます。確実に売却を成功させるためには、買手のターゲットを見極めるとともに売却の戦略を練る必要があります。不動産会社との連携やコミュニケーションをしっかり取るようにしましょう。
どうしても買手が見つからない場合は、不動産会社の買取サービスを利用するのも有効です。買取サービスとは、不動産会社がリフォーム・リノベーションを施して転売する前提で、消費者から不動産を買い取るサービスのことを指します。
買取サービスを利用すれば、古い家であっても確実に売ることが可能です。ただし転売に際し、売り出し価格に転嫁する不動産会社の利益やリフォームなどの費用が考慮されるため、一般市場向けに売り出すよりも買取価格は安くなります。
また、リフォーム・リノベーションを施しても売れる見込みがないと判断された場合は買取に応じてもらえません。売る家次第でサービスを利用できない可能性があることにも要注意です。
築40年以上 ― 解体、古家付き土地での売却などの戦略
築40年以上の物件では、建物としての価値よりも土地としての価値に重点が置かれることも多くなります。ただし、一概に建物の解体を選択するのではなく、建物の状態や立地条件に関する総合的な判断が必要です。
良好な状態が保たれており、趣のある建築様式を持つ物件であれば、古民家として付加価値を見出せる可能性も出てきます。また、解体費用と土地の価値を考慮した上で、家ではなく「古家付きの土地」として売却するのも有効です。
古家付きの土地として売り出すにあたっては、売主側が家に何か手を加える必要はありません。一方で、家ではなく土地を探している買手や不動産会社なども売却対象になります。売り出し方を変えるだけですが、売却の間口が広がるため有効な手段の一つです。
そのほか、自治体が運営する空き家バンクへの登録も、場合によっては購入希望者とマッチングする可能性を広げる有効な選択肢となります。
立地別の売却アプローチ ― 都市と地方で異なる売却の流れ
家の立地条件は、築年数と並んで売却戦略を決定する重要な要素です。都市部と地方では、不動産の需要や価格相場が大きく異なるため、それぞれの地域特性に応じた適切なアプローチが必要になります。
都市部の古い家
都市部の物件は、立地の利便性に大きな価値があるため、築年数が古くても一定の需要を期待できます。特に、駅近であったり生活利便施設が充実していたりする地域では、建物の状態以上に立地の価値が重視される傾向があります。
このような場合は、大規模なリフォームをするよりも、水回りの設備修繕や内装の軽微な補修など、必要最小限の手入れにとどめることをおすすめします。利便性の高い立地であれば賃貸需要も見込めるため、居住用ではなく投資用物件として売り出すのも有効です。
地方・遠隔地の古い家
地方の物件は都市部と比べて需要が限定的になりがちです。また、所有者が遠方に住んでいる場合は特に、物件の管理や売却活動に制約が生じやすくなります。このような状況下では、担当者と頻繁にコミュニケーションを取るなど、地元の不動産会社との連携が重要です。
なお、地方物件の売却においては、空き家バンクの活用も有効な手段となります。自治体が運営する空き家バンクに登録すれば、移住希望者など地方の物件を積極的に探している層へのアプローチが可能です。
また、オンラインでの内見やリモートでの商談など、遠隔地からでも効率的に売却活動を進められる方法を活用することで、スムーズな売却につなげられます。
古家付き土地で売る vs. 更地で売る ― 売却形式のメリット・デメリット徹底比較
築年数が40年を経過しているなど特に古い家を売却する際、もっとも悩ましい判断の一つが「古家付き土地として売るか、更地にして売るか」という選択です。
どちらの方法にもメリット・デメリットがあり、物件の状況や市場環境によって最適な選択は変わってきます。ここでは、両者の特徴を比較し、状況に応じた最適な選択方法を解説します。
古家付き土地で売る場合のメリットと注意点
古家付きの土地として売却する最大のメリットは、解体費用を負担せずに売却できることです。解体費用は物件の規模にもよりますが、一般的な木造住宅で100万円以上かかることも珍しくありません。この初期費用を抑えられることは、売主にとって大きな利点となります。
また、建物が建っている状態を維持することで、固定資産税の住宅用地特例による軽減措置を受け続けることも可能です。この特例により、200m2以下の小規模住宅用地では、更地にした場合と比較して固定資産税が6分の1に軽減されます。
一方で、古家付き土地として売却する場合の代表的な注意点として、建物の老朽化が進むほど維持管理費用が増加することが挙げられます。特に売却までに時間がかかる場合は、定期的な点検や修繕が必要となり、想像以上にコストがかさむ可能性もある点に要注意です。
なお、古家付きの土地として売り出すとしても、建物について最低限の管理をしておくことは必要です。例えば何も管理をしておらず害虫が発生していたり、雑草が生い茂っていたりという状態になっていると、買手に「購入後の処置が面倒」という印象を与えかねません。
解体費用と固定資産税の減免効果
解体を行わない場合、固定資産税の軽減措置を継続して受けられることは大きなメリットです。建物をそのままにしておけば、評価額によっては更地の場合と比べて年間の固定資産税額が数十万円下がることもあります。ただし、建物が「特定空家等」に認定されると軽減措置が適用されなくなるため要注意です。
古家付き土地売却のターゲット層
古家付きの土地を購入する層は主に2つのタイプに分かれます。1つ目のタイプは建物をリフォーム・リノベーションして使用することを前提とした購入者です。特に、家を自分好みにリノベーションしたいDIY愛好家や、とにかくコストを抑えて住宅を購入したい若い世代などが該当します。
このような人たちは空き家バンクで家を探していることも多いほか、地方移住を支援する組織などに相談しているケースなども考えられます。
2つ目のタイプは土地の利用価値を重視する購入者です。建物の解体を前提として、自分の理想とする住宅を建築したい人や、投資目的で将来的な開発を考える事業者などが含まれます。地域の特性や需要に応じて、これらの層へ効果的にアプローチすることが重要です。
地方で営業する地場の不動産会社や地主の人などに、このようなタイプの人がいることもあります。地方では特に地元の不動産会社が横のつながりを持っていたりするため、不動産会社を選ぶ際に心当たりがあるか聞いてみてもよいでしょう。
更地で売る場合のメリットと注意点
更地での売却は、幅広い購入者層にアピールできるメリットがあります。また、そこまで建物の状態を気にする必要がないため価格交渉もシンプルです。
更地にすることで活用の幅が広がる
更地で売却すれば土地の利用方法は買主が自由に決められるため、アパートやマンションなどの集合住宅、コンビニなどの商業施設、駐車場など、さまざまな用途での活用を検討できます。特に商業地域や賃貸住宅の需要が高いエリアでは、更地にすれば土地の潜在的な価値を最大限に引き出すことも可能です。
一方で、解体工事にあたっては予想外の追加費用が発生するリスクもあります。そのほか、更地にしてもすぐに売却できない場合は、固定資産税の負担が大きく増加することにも要注意です。
解体費用のシミュレーション
木造住宅の解体費用は、建物の規模や立地条件によって大きく変動します。広さ30坪の木造住宅を例とすると、一般的な解体費用は以下のような内訳となります。
基本的な解体工事費:100万円~150万円
アスベスト調査費用:5万円~10万円
産業廃棄物処理費用:20万円~30万円
諸経費:10万円~20万円
ただし、これらは目安であり、建物の状態や地域などによって実際の費用は変動します。複数の解体業者から見積もりを取り、内訳を詳細に確認することが重要です。
売却にかかる税金の基本と節税のコツ
不動産を売却する際には、適切な税務対策を行えば税負担を大幅に軽減できる可能性があります。特に古い家の売却では、長期所有による特例や各種控除制度を活用できるケースが多いです。売却時にかかる税金の基本的な仕組みと、効果的な節税方法について解説します。
売却時にかかる3つの税金とは?
家を売却するときには主に、譲渡所得税、固定資産税、住民税の3つの税金が関係してきます。
譲渡所得税
譲渡所得税は家の売却によって生じた利益に対してかかる税金です。売却価格から取得費用や諸経費を差し引いた金額が課税対象となります。
具体的な計算方法は以下のとおりです。
譲渡所得 = 家の売却価格 - (家の取得費用 + 売却に関係する各種経費)
譲渡所得にかかる税率はその家を何年間所有していたかによって異なります。所有期間が5年以下の場合は短期所有と見なされて39.63%、5年以上の場合は長期所有と見なされて20.315%になります。
なお、所有期間を計算する際は、所有権移転日を起点とするわけではない点に要注意です。その家を購入した翌年の1月1日以降、何年間経過しているかという計算の仕方をします。
例えば2024年12月に家を購入した場合は、2025年1月1日を起点とするため、2030年12月31日を経過した後に売却しないと短期所有と見なされます。
家を購入したときの購入額(計算式で言うところの「家の取得費用」)については購入時の売買契約書を確認するのが有効です。しかし、古い家を売る場合は、購入時の売買契約書が手元になく、いくらで買ったのか分からないということもあるでしょう。
家の取得費用が分からない場合は、売却に際して売れた価格の5%相当額を取得費とすることが可能です。また、1953年以降に取得したことが分かっている場合は、建物については国税庁の「建物の標準的な建築価額表」、土地については一般財団法人 日本不動産研究所の「市街地価格指数」をもとに取得費を「推定する」という方法も取れます。
売却額の5%相当額を採用するか、取得費を推定するかは税金の計算結果によって決めても問題ありません。ただし、正確な計算については税理士に相談することをおすすめします。
固定資産税
固定資産税は、1月1日時点における家の所有者に対して課税される税金です。具体的な計算方法は以下のとおりです。
固定資産税の評価額(課税標準額)× 標準税率(1.4%)
固定資産税の評価額は3年に1回変更されます。一方で固定資産税の納税通知書は毎年4月から6月を目安として発送されます。自治体によって発送時期が違うため、正確な時期を把握するためには地元自治体への問い合わせが必要です。
固定資産税評価額は納税通知書に記載されているため、現在の評価額を確認したい場合は納税通知書を参照するとよいでしょう。納税通知書が手元にない場合は、自治体へ問い合わせれば再発行を依頼できます。
なお、家を売却した年の固定資産税は、売主と買主で月割り計算して精算するのが一般的です。
住民税
住民税は譲渡所得に応じて課税されるもので、所得税と合わせて納税する必要があります。住民税の税率は基本的に10%です。
売却した家が古いか新しいかに関わらず、実際に家が売れた場合は翌年の申告期間中に確定申告が必要です。損失を出した場合は支払う税金がないため不要なのではと思うかもしれません。詳しくは後述しますが、損失を出した場合も確定申告することで、普段支払っている税金を減らせる可能性があります。
節税に活用できる特例と税額控除の詳細
不動産を売却する際には、さまざまな特例制度や控除制度を利用することで、税負担を軽減できます。特に古い家の売却では、長期所有による優遇措置や特別控除を活用できる可能性が高くなります。
3,000万円特別控除の適用要件
居住用財産を売却する際に利用できる3,000万円の特別控除は、もっとも一般的な節税制度の一つです。この特例は、売主が実際に居住していた家屋とその敷地を売却する場合に適用可能です。売却益のうち3,000万円までが非課税となるため、大きな節税効果が期待できます。
ただし、適用を受けるためには以下いずれかの要件を満たす必要があります。
- 1.現在自分が住んでいる家屋であること
- 2.以前に住んでいた家屋であること
- 3.上記2つのいずれかが建っていて取り壊した場合は、住まなくなった年から3年後の12月31日までに売る場合で、家屋を取り壊した日から1年以内に敷地の譲渡契約を締結すること。また、譲渡契約を締結した日まで、貸し駐車場そのほかの用に供していないこと。
- 4.家屋を売った年、その前年・前々年にマイホームの買い替え・交換の特例適用を受けていないこと
- 5.売った家屋と敷地について、ほかの特例の適用を受けていないこと
- 6.親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものではないこと
2の場合は、住まなくなった年から3年後の12月31日までに売却する場合に限ります。なお、住まなくなってから賃貸に出していても問題ありません。
詳細は国税庁のホームページを参照してみてください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
3,000万円の特別控除は「マイホームを売ったときの特例」とされているため、基本的に控除を受ける本人が住んでいるまたは住んでいた家屋である必要があります。このため、古い家の売却に当てはめると、実家を売却する場合などに限るため要注意です。
長期所有特例や住宅ローン控除の適用方法
長期所有特例は、5年を超えて所有していた不動産を売却する際に適用される税率軽減制度です。前述したとおり、短期所有による譲渡所得税率39.63%が20.315%まで軽減されるため、大きな節税効果を期待できます。
また、住宅ローン控除は、新たに住宅を購入する際に利用できる制度です。古い家を売却して新居を購入する場合にも適用できます。ただし、3,000万円の特別控除と併用はできないため、どちらの制度を利用するのが有利か確認する必要があります。自分で判断がつかない場合は税理士など専門家に相談するとよいでしょう。
住宅ローン控除と減価償却の計算方法
住宅ローン控除の金額は、住宅ローン残高に応じて計算されます。年末時点におけるローン残高の0.7%相当額が所得税から控除される仕組みで、最大で13年間控除を受けられます。ただし、所得制限があり、収入が高い場合は控除額が減額されるため要注意です。
一方で、減価償却は建物の経年劣化による価値の低下を税務上で認識する仕組みです。減価償却費は取得費用から控除できるため、譲渡所得の計算において重要な要素となります。減価償却費の計算式は以下のとおりです。
※2007年4月1日以降に取得した建物の減価償却費
建物の取得価額 × 償却率
※2007年3月31日以前に取得した建物の減価償却費
建物の取得価額 × 90% × 旧定額法の償却率
国税庁:No.2105 旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)
No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)
償却率については建物の構造と築年数によって変わるため、正確な数字については税理士に相談することをおすすめします。
なお、減価償却の制度は土地に適用されない点に要注意です。戸建住宅を売却する場合は、建物と土地の売買価格がそれぞれいくらなのか把握する必要があります。
節税効果を最大化するためのコツ
制度や特例などを利用する以外にも、売却や解体のタイミングを調整したり、なるべく多めに経費を計上したりといった方法によって節税効果を上げることが可能です。
解体のタイミング調整で固定資産税を抑える方法
固定資産税は毎年1月1日時点の状況に基づいて課税されるため、解体のタイミングを調整することで税負担を抑えられます。例えば、12月に売却が決まった場合、解体を1月2日以降に延期することで、その年の固定資産税の軽減措置を維持できます。
特に、更地にすると固定資産税が最大6倍になる可能性があるため、売却までの期間が短い場合は、建物を残したまま売却することも検討するとよいでしょう。
不動産会社の意見も聞く必要がありますが、先に建物を解体するのではなく、解体予定であるとして時期を示した上で売却するのも一つの方法です。
損益通算や経費計上で税負担を軽減する方法
不動産売却で損失が発生した場合は、ほかの所得と損益通算することで、全体の税負担を軽減できる可能性があります。具体的には、給与所得や事業所得などと売却損を相殺できる上に、控除しきれなかった分については、翌年以降3年間にわたって繰り越しが可能です。ただし、不動産売却によって発生した損失を損益通算するためには、確定申告が必要になります。
また、売却に関連する経費を可能な限り多く計上することで、課税対象となる譲渡所得を減らせます。家の売却にあたっては主に以下の費用が経費として計上可能です。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 所有権移転に関する登記の費用
- 隣地との境界確定に関する測量の費用
- 不動産鑑定費用
- インスペクションの費用
さらに、売却前に行った修繕やリフォームの費用も、一定の条件下で経費計上が可能です。これらの節税対策については、費用項目ごとに計上するための条件などがあるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
知っておきたい売却後のリスクと対策
古い家を売るにあたっては、取引が完了した後もいくつかのリスクに注意が必要です。特に、建物の不具合に関する売主の責任や、売却までの期間における空き家の管理などを把握しておくことが重要です。古い家を売った後に発生する可能性のあるリスクと、その対策について解説します。
契約不適合責任の概要と売却後のリスク
不動産取引において、売却後に建物の不具合や契約内容との相違が発見された場合、売主は契約不適合責任を問われる可能性があります。古い家の場合は特に、後から予期せぬ不具合が見つかるリスクも高いため、売主のリスクヘッジが重要なポイントです。
契約不適合責任とは、引き渡された物件が契約の内容と適合していない場合に、売主が負う責任を指します。具体的には修繕にかかる費用を売主が負担することになります。古い家の場合は、構造上の問題は特に注意が必要なポイントです。
家の土台を支える基礎の亀裂や柱のゆがみなどが売却後に発見されるケースは少なくありません。また、経年劣化による雨漏りや水漏れ、配管の劣化や電気系統の問題といった設備の不具合も深刻な問題となります。
さらに、シロアリ被害やアスベストの使用など、建物の安全性に関わる重大な問題が後から判明することもあるでしょう。
このような問題は事前に把握した上で買主へ適切に説明することが重要です。建物を売り出す前にインスペクションを実施することによって、あらかじめ問題点を把握できます。インスペクションとは専門業者による建物の検査点検のことです。検査点検に要する時間は数時間程度で、売主が住んでいる住居であっても実施可能です。
インスペクションの費用は業者や家の広さによって異なりますが、概ね5万円から10万円の費用を見込んでおけば十分でしょう。確定申告の際にはインスペクションの費用も経費として計上可能です。
なお、万が一不具合が発見された場合は、不具合の内容を売買契約書の添付書類などに明記しておく必要があります。売買契約を締結する前に売主へ内容を通知して契約不適合責任の対象外とすることで、後のトラブルを防げます。
リスク軽減のための瑕疵担保保険の活用方法
契約不適合責任のリスクに備えるため、瑕疵担保保険に加入するのもおすすめです。瑕疵担保保険とは、引き渡し後に発見された不具合の修繕費用をカバーするもので、売主・買主双方の安心につながります。
瑕疵担保保険に加入すれば、万一のことがあっても売主の金銭的負担を大幅に軽減できるでしょう。また、古い家を売るのであれば特に、保険加入物件であることは買主に対して物件の安全性をアピールする強力な要素にもなります。
さらに、築20年を超える物件であっても、保険の加入によって住宅ローン減税の対象となる可能性が広がる点もメリットです。
ただし、瑕疵担保保険に加入するためには必ずインスペクションを実施する必要があるほか、保険料の負担が発生します。これらの費用と保険によるメリットを比較検討した上で、加入を判断することが重要です。
ちなみに、インスペクションの実施については、取引を仲介する不動産会社は業者の斡旋可否などについて売主に説明することが法律で義務付けられています。しかし、売主はインスペクションを実施する義務を負っておらず、実施の有無は任意です。
一方で、売買契約に関する書面には「建物の構造耐力上主要な部分の状況について売主・買主の双方が確認したか」を記載する義務があります。つまり、家の基礎などに問題がないか確認したことを書面に残すということです。インスペクションを実施しない場合は「確認しなかった」旨を書面に残すことが必要です。
空き家を放置した際に起こりうるリスクと管理対策
売却活動中に発生する空き家の管理は売主にとって大きな課題となります。適切な管理を怠ると、建物の価値低下を招くだけでなく、さまざまなリスクが発生する可能性も出てきます。
税負担増加や治安悪化のリスク
空き家を適切に管理せず放置すると、まず固定資産税の軽減措置が受けられなくなるリスクがあります。特に「特定空家等」に認定されると、最大で通常の6倍の固定資産税が課される可能性もある点に要注意です。
また、防犯上の観点からも重大な問題が発生する可能性があります。不法侵入や放火などの犯罪リスクが高まるだけでなく、雑草が生い茂ったり害虫が発生したりといった近隣への悪影響も懸念されます。過去には空き家が知らないうちに犯罪者の拠点にされていた、ホームレスが入り込んでいたということも起きているため注意が必要です。
万が一放火されて周囲の建物へ延焼すると、後で建物の管理責任を問われることにもなりかねません。また、害虫が発生すると、近隣からの苦情に対応しなくてはならないこともあるでしょう。
そのほか、適切な管理がされていない建物は急速に劣化が進むため、自然災害が発生したときには倒壊のリスクも高まります。これらの問題は、売却時の価格に大きく影響するだけでなく、近隣とのトラブルによって対応に時間を取られる原因になり得ます。
空き家管理サービスや管理支援ツールの紹介
売ろうとしている家から遠い場所に住んでいるなど、自分で管理するのが難しい場合は、空き家管理サービスを利用するのも一つの方法です。空き家管理サービスを利用すれば、定期的な見回りや換気、庭の手入れなど、本来持ち主がするべき管理作業を代行してくれます。
具体的には、定期的な見回りと点検を実施し、建物の状態を確認します。また、建物内の通風・換気を行うことでカビの発生を防ぎ、室内の環境を適切に保ちます。さらに、郵便受けに入っている郵便物の確認と入っていた場合の転送、庭木の手入れ、建物内外の清掃といった日常的な管理を委託可能です。そのほか、水道やガスなど設備の動作確認も定期的に行うことで、万一設備の不具合が発生しても早期に発見・対応できます。
空き家管理サービスを利用する以外には、防犯カメラやIoTセンサーなどのツールを活用することで、遠隔地からでも建物の状態を監視可能です。これらのツールは、不審者の侵入や雨漏りなど目視可能な異常を早期発見するのに役立ちます。
管理サービスやツールの利用には費用がかかりますが、建物の価値低下を防ぐとともに、トラブルの予防が可能です。売却までの期間や物件の状況に応じて、適切な管理方法を選択することが重要なポイントになります。
グラングッド不動産の売却サービスについて
古い家の売却には豊富な経験とノウハウが必要不可欠です。福岡県内で多くの不動産売却実績を持つグラングッド不動産では、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な売却プランをご提案しています。
特に古い家の売却では、建物の状態や立地条件によって最適な売却方法が異なってきます。当社では、長年の経験を生かした的確な査定と、豊富な取引事例に基づく市場分析により、お客様の大切な資産を最大限の価値で売却できるようサポートいたします。
また、古い家特有の課題である耐震性能や建物の劣化状態についても、専門的な知識を持つスタッフが丁寧にアドバイス。必要に応じて耐震診断の実施や耐震補強工事のご提案、さらには瑕疵担保保険の活用など、売主・買主双方が安心できる取引をコーディネートいたします。
売却までの期間中は、定期的な物件の状態確認や管理のサポートも実施。大手不動産ポータルサイトへの掲載はもちろん、地域密着だからこそ持つ独自のネットワークを活用し、より多くの購入検討者へ物件の魅力を発信いたします。
お客様の状況やご要望に応じて、買取による売却のご相談も承っております。まずは無料査定から、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
古い家の売却は、状況に応じた適切な戦略選択が重要です。築年数や立地条件によって、そのまま売却するか、リフォームを施すか、あるいは更地にして売却するかを判断する必要があります。また、古家付き土地として売却するか、更地にして売却するかの選択も、物件の状況や市場環境などを考慮して決定することが大切です。
売却後にお金を残すためには税金対策も重要な要素です。3,000万円特別控除や長期所有の特例など、各種税制優遇措置を適切に活用することで、税負担を大きく軽減できる可能性があります。
さらに、売却後のリスク対策として、契約不適合責任に備えた瑕疵担保保険の加入や、空き家にしている場合は買主へ引き渡すまでの適切な管理も重要な検討事項となります。
古い家であっても、これらの要素を総合的に考慮し、適切な準備と戦略に基づいて売却活動を進めることで、満足のいく結果を得られるでしょう。